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光学フィルムの最前線

周期波状構造形成技術「ナノバックリング技術」でピッチ50nm~20μmまで自在にコントロール

王子エフテックス株式会社 製品開発部 岡安マネージャー

イギリス留学中に教授からアドバイスされてたまたま作ったナノサイズの凹凸のあるフィルム、それがナノバックリングシートの始まりでした。
照明機器、ディスプレイの世界で、異方性拡散フィルムとして照度効率の向上、省エネに寄与しています。

ナノバックリングシートは簡単に大面積に、且つサイズ・ピッチもコントロール可能な凹凸形成技術です

材料の熱収縮率差を利用した微細凹凸形成技術です

熱収縮フィルムに別の素材の表面層(これを硬質層と呼びます)を設けたシートを加熱収縮すると、熱収縮フィルムは収縮し、硬質層は収縮しないためシート全体は波上に座屈(バックル)し、表面に周期性のある凹凸構造が形成されます。これがナノバックリングシートの表面凹凸形成方法で、凹凸構造のピッチは熱収縮フィルムや硬質層の材質、厚みを変えることで、凹凸構造のアスペクト比(凹凸構造の高さ/凹凸構造のピッチ)は主に収縮率を変えることでコントロールすることが可能で、凹凸ピッチが100~200nmでは可視光全域で低反射率を示すシートができ、凹凸ピッチが数ミクロンの場合は異方性拡散構造として利用できます。

光を拡散させるために用いられるシートは通常全方向に等しく拡散を発生させる等方向性拡散であるため、ディスプレイの上下方向など不要な方向にも光を拡散させますが、これに対してナノバックリングシートは異方性拡散なので必要な方向、ディスプレイであれば左右方向に光を拡散させて正面輝度を効率よく向上させることが可能です。

イギリスから持ち帰った技術の種は、思いがけない場所で花開きました

会社の制度(当時)を利用して留学、新たな技術の種を持ち帰りました

ナノバックリングシートに着手したきっかけは、イギリス留学中に教授からのアドバイスでたまたま高分子フィルムの表面にナノサイズの凹凸を作ってみたことでした。
フォトリソグラフィや電子線切削など高価な方法で小さな面積に加工をするそれまでの技術とは異なり、大面積に対して簡単にナノサイズからマイクロサイズの凹凸を形成できることが特長です。
当初は、せっかくナノサイズの凹凸がコントロール可能なので、可視光全領域(波長域:380~700nm)の範囲で低反射率のシートを実用化しようとチャレンジしていました。
研究を始めた2005年頃は液晶、有機EL、プラズマといった各ディスプレイ技術が凌ぎを削っており、これからの大きな産業になることが見込まれていましたから、大量生産可能な反射抑止フィルムの将来性にも期待できたのです。
しかし、ナノサイズの凹凸をコントロールしながら生産をスケールアップするには、当時の技術では限界がありました。

ところが、あるきっかけがあって光拡散フィルムとしての検討を開始したのがブレークスルーとなり、社外に光学フィルム技術をまとめて発表したのを機に、ナノバックリングシートは複合機のスキャナー光源やトンネル内の照明に採用されました。
研究室でテーマを深堀りするだけでなく外部の方に成果をお披露目することで用途が広がることを実体験しました。
当初考えていた方向とはかなり違った形で成果が花開いたというわけです。

新領域への挑戦を応援してくれる環境がありました

“新しい事業の種を世の中に出すために” チーム内外を問わずフランクな議論ができる環境です

あるテーマで研究を始めたとして、製品として世の中に出ていくまでにはいくつもの困難があるものですが、ナノバックリングシートも同様でした。
まず最初に、反射抑止フィルムとしての開発の行き詰まりがありました。
今だったらあまり問題にならないような課題でしたが、当時はそれがクリアできなければ生産移行できないような大きな課題でした。
この場面では、光拡散フィルムを探していた同僚からの質問が変換点となりました。
更に光拡散フィルムとして生産移行する目途がついたものの、肝心の引き合いが無くどうしようかと思い悩んで光学フィルム関連技術のプレスリリースという大きなプロモーションを実行し、予想もしなかったような領域のお客様からいくつもの引き合いをいただきました。

研究を始めてから最初の引き合いをいただくまで、傍から見るとたくさんの困難に見舞われ苦労しているように見えたに違いありませんが、当人はそれを全く苦労と感じませんでした。
その理由は周りのメンバーや上司、会社の姿勢にありました。
この研究を進めてきた間、周囲は『新しい研究がうまくいっていない』という傍観的視点ではなく、『新しい事業の種を世の中に出すためにどうするか』という伴走者的視点で見守り、支援をしてくれました。
期待して応援してもらえたから、モチベーション高く、前を見て進み続けることができました。

ディスプレイ技術の進化とともにナノバックリング技術も進化します

これからのディスプレイ技術を更に効果的にできるかもしれません

光の異方性拡散という機能が、照度効率の点でディスプレイ産業に貢献できると思っています。
特にLEDを使用した機器が増えるにつれて、光源光を均一に且つ照度を低下させずに拡散させることができるナノバックリングシートの活躍の場が広がると確信しています。
車載や家電搭載用の小型ディスプレイは消費電力や重量の点から、少ない光源で正面輝度を効率よく高くする必要があるでしょうし、公共の場に増えつつあるデジタルサイネージも省電力・高照度効率が求められるでしょう。

左右方向には光を拡散しないが上下方向には拡散する機能が遮蔽板やレンチキュラーレンズの機能、すなわち左右方向に別の光を照射しようとする機能を阻害せずに、且つ上下方向には光を拡散させ照度を低下させない機能がディスプレイの正面輝度を高く保つ働きをします。
課題もあるかもしれませんがナノバックリングシートの新しい用途を広げるため、更に研究を進めていきたいと考えています。

最初のお客様が一番思い出に残っています

“紙”のイメージが強い王子グループですから、最初の販売活動は大変でした

ナノバックリングシートに関する仕事の中で最も嬉しかったことといえば、やはり最初に販売契約が取れたときのことでしょう。
研究からスタートして製品になるまでには長い時間がかかりますし、これまで王子グループの製品を購入してきてくださったお客様とは異なる分野のお客様を探しましたから、なかなか最初の販売契約は取れませんでした。
ですから、最初に購入を決めていただいたときはナノバックリングシート関係者、職場の同僚などみんなで喜び合いました。
ある時計の一部品としてお使いいただいた案件で販売契約としては控えめな規模ですが、最初にナノバックリングが世の中のお役に立った例です。

その後、次々に引き合いをいただいていくつかの大きな販売契約を締結しましたが、最初の案件は一番思い出に残っています。

※本コンテンツの取材・撮影は王子ホールディングス株式会社 イノベーション推進本部 ディベロップメントセンター アドバンストフィルム研究所にて実施いたしました。研究所で開発した製品を事業会社(王子エフテックス)が強く迅速に展開するため、情報交換・人材交流を密におこなっています。

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